大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 昭和61年(行コ)8号 判決 1988年6月23日

岡山県笠岡市山口一四五七番地

控訴人

安藤元雄

右訴訟代理人弁護士

山崎博幸

岡山県笠岡市五番町五

被控訴人

笠岡税務署長

米今喜作

右指定代理人

吉川慎一

藤井賢次

藤川哲

中西俊平

佐下勝義

江本寛

礒村泰治

坂元耕樹

右当事者間の課税処分取消請求控訴事件につき当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

訴訟費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は「1 原判決を取り消す。2 被控訴人が昭和五五年七月四日付で控訴人の昭和五三年分及び昭和五四年分の所得税についてした各更正並びに過少申告加算税及び無申告加算税の各賦課決定をいずれも取り消す。3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者の主張及び証拠は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実適示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三枚目裏末行、同一八枚目裏一二行の各「全て」を各「総て」と改める。

2  同一四枚目表末行の「されているが、」の次に「別表」を加え、同三八枚目表末行の「六四九三七三〇」を「六四九二七三〇」と改める。

3  同一七枚目裏一一行目、一八枚目裏五行目の各「奇弁」を「詭弁」と改める。

4  控訴人の主張

(一)  本件における被控訴人の推計課税については、以下のとおり合理性が認められない。即ち、被控訴人は、本件の推計課税の基礎資料をA、B、C三名の業者から求めているが、控訴人の業態(請け負う製造工程の範囲)とA、B、C三名の業者のそれとは大きく異なつており、ミシンの所有台数及び種類の多寡が、業態の相違を示す最も有力な裏付資料である。ジーンズの製造工程は、細分化した各工程毎に使用されるミシンの種類が限定されており、その種類を見ればどの工程を請け負つているかが一目瞭然と判別することができ、その台数と相俟つて業態が類似しているか否かも判別することができる。 原判決は、ミシンの所有台数について控訴人とA、B、C三名の業者とは異なつており、この点では類似しているものといい難いとしながら、他方、A、B、C三名の業者のミシンの中には、耐用年数を経過しているものや、外注先に貸し出しているものが含まれていることから、これらの点を減殺すると控訴人とA、B、C三名の業者のミシンの各所有台数がかれこれ類似していないとはいい切れないとしているが、右にいう耐用年数とは、ミシンの償却年数(六年又は七年)を指すもので、物理的な耐用年数を指すものではないことは明らかであり、物理的な耐用年数は、右の償却年数を超えているものと見るのが一般的な常識である。そして、A、B、C三名の業者に貸出ミシンが存在するとの点については、不明確な原審証人小野裕一郎の証言が存在するのみで確たる証拠はない。さらに原判決は、アタツチメントの取替えまたは専用縫いミシンを有する外注先に外注することにより多くの工程を受注することができる旨の被控訴人の主張を、十分吟味することもなく無条件に受け入れたうえ、控訴人がアタツチメントを有しているとか、右のような外注先に外注しているとかの証拠が全く存在しないにも拘らず、そのようなこにより受注しうる可能性が存在するとして控訴人とA、B、C三名の業者との間の業態の類似性のあることを認定しているが、極めて恣意的独断的な誤つた判断であるといわなければならない。

(二)  被控訴人の後記5の主張は争う。

5  被控訴人の主張

(一)  控訴人の右4の主張は争う。

(二)  原判決理由中にある耐用年数とは、税法上の減価償却費の計算に用いているものであるが、減価償却資産に通常の維持補修を加え通常の場所において通常の目的に供される場合に本来の用途用法により現に通常予定される効果をあげうる年数を省令で規定したものである(減価償却資産の耐用年数等に関する省令、昭和四〇年大蔵省令第一五号)。A、B、C三名の業者保有するミシンの中には、右耐用年数の経過しているものが存在しており、このような古いミシンには、現に通常予定される程度に使用されていないものが含まれていることを推認するに難くなく、また外注先への貸出しについては、原審証人小野裕一郎が同業者の許に赴いて調査して確かめており、これらの事情を総合して考慮すると、控訴人とA、B、C三名の業者との間にはその業態についても類似性を肯定するのが相当であり、右の程度であつても推計課税の合理性は存在するものとしてこれを是認すべきである。

控訴人とA、B、Cとは、収入金額において近似し、家族従業員数等の四つの指標においても類似していて、事業規模の類似性において欠けるところはないのであつて、控訴人において、若しミシンの台数及びその種類並びに外注先の件数の多寡その他の事情が、業態ひいては所得金額をかなり相違させ、推計課税の合理性の存在することを否定する要因となりうると主張するのならば、これらは被控訴人の推計の合理性を否定する特殊事情としてその立証責任は、これを主張する側即ち控訴人が負うべきものであり、本件において控訴人は、右の点について被控訴人の推計課税の合理性を否定するに足りる右格別の事情の立証をなんらしていないのであつて、被控訴人の本件推計課税の合理性の存在することをこのような見地から是認した原判決は正当である。

6  当審における証拠

当審における証拠は、当審記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所は、控訴人の請求を理由がなく失当として棄却するべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二二枚目表八行目「いる者三名」を「いる者として三名」と改める。

2  同二二枚目裏一行目「原告と類似しており」を「の事実関係が認められたことから、A、B、C三名の業者は、控訴人とこれらの点についても類似している者と判断し」と改め、三、四行目「原告とほぼ同じであることを確認したこと」を「縫製工程についても控訴人とほぼ類似していることを、右同業者A、B、Cについては、その各作業場の実地見分、各本人からの探聞及び各工賃の支払明細表等により確認判断したこと」と改める。

3  同二三枚目表五行目「によれば」を「のほか、成立に争いのない甲第四、五号証、原審における控訴人本人尋問の結果によつて成立を認める甲第一号証、前掲乙第二ないし第七号証、原審証人小野裕一郎の証言(但し一部)、原審及び当審における控訴人本人尋問の各結果(但し、各一部)並びに弁論の全趣旨を総合すれば」に改め、六行目「していることが」から八行目「によれば」までを「していること、また事業規模についても、別表(四)記載のとおり、」と改める。

4  同二三枚目裏一行目「においても」の次に「ほぼ近似していることなどから」を加え、二行目「を認めることができる。確かに」を「があること、ただしかし、」と改め、七行目「てあつて、」の次に「しかもその保有するミシンの種類は、控訴人がインターロツクミシン一台、巻縫ミシン一台等特殊ミシン合計二台、平ミシン三台に対し、A、B、Cはインターロツクミシン、巻縫ミシン、オーバーロツクミシン、二本針ないし四本針ミシンのほかA、Cは門止めミシン等の特殊ミシンを合計七台から九台各保有しているが、ミシン全台数に占める平ミシンの各台数(A、B各一台、C二台)が特殊ミシンの台数に及ばないこと、ジーンズの縫製工程において右特殊ミシンが使用される用途及び工程並びに平ミシンの使用される用途及び工程を考察すると、別表(七)(「工程」及び「必要な機械」欄)記載の各工程段階で各ミシンが使用されるものであること、これらの事情を総合考察すると、右各保有ミシンの種別等からして、ミシンを使用するジーンズの縫製工程としては、概ね、控訴人が同表記載の前半部の工程3・4(前身等に付属する生地のかがり縫い(オーバーロツクミシン使用、なお、インターロツクミシンも針を一本取りオーバーロツクミシンとして使用)、前身及び後身縫い(ポケット、チャック及びネーム付けが主なもの、平ミシン使用))までのジーンズとしては、完成品に対し約三分の一程度にすぎない半製品の縫製段階までの下請であるのに対し、A、B、C三業者は、右3・4の縫製工程をさらに進み、工程5から8(後ろ合わせ縫い(巻縫ミシン使用)、脇合わせ縫い(インターロツクミシン使用)、腰帯縫い(四本針または二本針ミシンを通常使用)、山はぎ縫い(巻縫ミシンまたはインターロツクミシン、平ミシン使用)、内股縫い(インターロツクミシン使用)、仕上縫い(平ミシン、二本針・四本針ミシン使用)、縫製済部分の補強縫い(門止めミシン使用))までを縫製し、縫製工程を全部完了した完成品を仕上げる下請業態であり(なお、控訴人は、従前全く経験のなかつた縫製業を営むに至つたのは、昭和五一年末頃からであり、本件係争年の昭和五三・四年ではいまだ一、二年の縫製業経験しかなく、縫製技能も高度のものを持ち合わせていなかつたため、下請内容は精々右程度に留まり、高度の縫製技能を駆使する巻縫い、インターロツク縫いを必要とする作業を要する下請をすることは困難であつたものであり(もつとも、昭和五四年後半に至つて一時期、ポケット付けの必要から邪魔になる布切れに、巻縫いとしては最も簡単な山はぎ縫いをしたことはあるようである。)、外注加工先も高度の縫製技能を有する者まで取り込むことは困難であつた。)、それぞれの外注関係もそれぞれ右各縫製段階若しくはそれに付随した程度の工程(控訴人については同表工程2の番号付け、裁分け、A、B、C三業者については同表工程2・9(糸始末)の各手作業)の下請けを依頼していたものとみるのが相当であることなどが認められ、原審証人小野裕一郎の証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の各結果中右認定に反する部分は、前掲その余の証拠に対比してにわかに採用することができず、他に右認定をる左右するに足りる証拠はない。そうすると」を加え、九行目「外注先件数」を「外注関係の具体的内容即ちどの工程についてどの程度の割合の仕事量をいくらの単価で誰に下請けされているかなどの具体的事実」と改める。

5  同二四枚目表二行目「耐用年数」の次に「(税法上の減価償却費の計算に用いるもの、減価償却資産の耐用年数等)に関する省令(昭和四〇年大蔵省令第一五号)」を加え、四、五行目「ことを考慮すると、A、B、Cが原告に類似していないとはいい切れない。そもそも」を「ことなども認められ、控訴人とA、B、C三名の業者ではミシンの保有台数及びその種類並びに縫製工程に右の程度の類似性を欠いたとしても」と改め、九行目「外注先件数の」から一二行目「むしろ」までを「外注関係の具体的内容(控訴人は、これを明らかにしていない。)、ミシンの保有台数及びその種類並びに縫製工程等の相違により、例えばその各工程における収入単価と原価及び諸経費等の面から工程3・4の縫製工程による利益率と工程3・4・5・6・7・8の縫製工程による利益率が大きく異なり、被控訴人のした推計による所得金額が過大であるとか或いはそれよりも低い実額を算出しうるとする事実関係は、むしろ」と改め、末行から同二四枚目裏一行目の「のが相当である。」の次に「(なお、原審証人小野裕一郎の証言及び弁論の全趣旨によると、各縫製工程における受注単価及び原価、諸経費等は業者及び製品の種別等によつて一様ではなく、推計課税においては相当程度の平均化もやむをえないものと認められる)。そして本件において被控訴人のした推計による所得金額が過大であるとか或いはそれよりも低い実額を算出しうるとする右事実関係については、これらに沿う原審及び当審における控訴人本人尋問の結果も、その客観的かつ具体的な裏付けのないものであるうえ原審証人小野裕一郎の証言及び弁論の全趣旨等に照らしにわかに採用し難いところであり、他にこれを肯認しうるに足りる証拠もないもであつて、その立証はされていない。」を加える。

6  同二五枚目表四行目「この点を」から同裏初行の「には至らず」までを削る。

二  そうすると、原判決は相当であつて控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺伸平 裁判官 相良甲子彦 裁判官 廣田聴)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例